Beasters(ビースターズ)の感想・レビュー
2018/12/30
動物を擬人化した新しいタイプの漫画
久々になかなか面白いと思える漫画に出会ったのでレビューします。
ビースターズのあらすじ
動物達が人間のように生活している異世界。その中にある全寮制の学校、チェーリントン学園である日アルパカのテムが何者かに食殺されるという事件が起こった。この世界において肉食獣と草食獣は対等に共存しており、肉食獣が肉を食らうことは許されず、草食獣を傷つけることは大罪であった。
主人公のレゴシは17歳のハイイロオオカミ。大型肉食獣でコミュ障気味の彼は食殺事件の犯人(犯獣?)の可能性もあると草食獣から距離を置かれる。
だが実際の彼はその見た目とは裏腹に昆虫を愛し、他人を気遣う心優しい青年だった。
その見た目で他人(他獣?)を怖がらせるが、本当は心優しい青年
ビースターズ はこのレゴシを中心に、様々な動物達の生き方や葛藤を描いた群像劇。動物独自の要素を残しつつ、擬人化して人間の普通の高校生が送るような学園生活が話の基本的な流れ。
『ビースターズ』ネタバレなしの感想
今までありそうでなかった設定。登場人物全てが動物で、人間は全く出てこない。動物も小型はネズミから大型はゾウやキリンまで様々で、それぞれの特徴などはそのまま持っている(例えば犬は独占欲がある、肉食獣は暗闇でも見えるが草食獣は見えなくなる等)。
物語はあらすじにも書いた食殺事件から始まるが、ミステリーやサスペンス色はほぼなく、どちらかというと平和な日常の話が多い。いかにも日本の高校生が日常的に話しそうなこと、例えば女の子とエッチした話しやゲームや漫画の貸し借りなどの話を動物達がしているだけだ。
そうして読み進めていくうちに段々とこの世界に違和感がなくなっていく。登場するのは動物だけなのになぜか感情移入もできる。それでいてしっかりと事件やイベントも起こるので、退屈することもない。この辺りは作者の力量もあるのだろう。若い女性漫画家らしい(刃牙の作者の娘さんという噂。真偽不明。)が、久々に凄い漫画家が現れたなと率直に思った。
初めの頃は取っ付きにくさがあるかもしれないが、是非読み進めて行って欲しい。
ここからネタバレ含むレビュー
最初の食殺事件は何処へやら?読んでいくうちにまるで”無かったこと”になってしまいそうな雰囲気は実は現実世界でも同じだよな、と思った。
一見平和に見えるこの世界でも、実はギリギリの所でなんとかバランスを保っているだけで、その脆さは現代社会にも通ずるところがある。
この漫画は実は結構恋愛要素が強く、オオカミとウサギという、禁断の恋が物語の主軸になっている。オオカミは悪、ウサギは善、とする童話や絵本などに対するアンチテーゼも読み取れる。
虫も殺せない狼だけど、やっぱり野生の本能を秘めている
レゴシはどんな少女漫画に出てくるイケメンよりも実は男らしい男!見た目ワイルドだけど優しくて恋愛には奥手。でもいざという時にはオオカミ独自の凶暴さも現す。そう、この男、ある種のロールキャベツ男子なのだ。そして個人的に私のタイプ(笑)。
そして、ドワーフウサギのヒロイン、ハルのキャラ設定が秀逸。本来ヒロインにあるまじきビッチキャラ。愛くるしいロリータな見た目とは反して色んなオス(彼女持ちですら)をたぶらかしてヤリまくる。読者としては、純粋なレゴシがハルのようなビッチを好きになる事に苛立ちも覚えるのだが、ハルにもハルなりにビッチになった言い分がある。ウサギという、この世界で最弱な動物として生まれた彼女は常に食われる恐怖を感じながら生きている。現実世界でも自分に自信のない女性や自暴自棄になった女性がビッチになりやすいとも言われているし・・・。ハルはとても女らしい女。現実世界にいたらめちゃめちゃ嫌われそうだけど、私はどこか憎めないキャラになっている。
イマイチキャラが確立されていないと感じるのはルイ。資産家の御曹司だと思いきや元孤児で、なんかよくわからないままヤクザのボスになり、また復学するとか…笑
ルイは実はこの物語のキモだと思うのだけれど、もっとうまく使って欲しいなぁ。
一番友達にしたいのはベンガルトラのビル。
「パコった」とか言う男子高校生普通にいそう…
現実世界だったらレゴシよりもビルの方が明らかに良いヤツなんだろうな~、と。
自分の欲望に正直に生き、それでも草食動物との友情も大切にするビル。最初は悪役っぽい位置づけだったけど、実はこの物語の中で一番普通の思春期の男子っぽいのがビルだと思う(笑)
あくまでも私感だけど、この世界の肉食獣と草食獣の関係は人間社会の男と女の関係に似ている気がする。男が本気を出せば女なんて簡単にねじ伏せられる。長い歴史を見てもずっと女は男に従ってきた。世の中が荒れていれば男は好きな時に女を犯すことができた。今の平和な時代では一応男女平等という事になっているが、その平等は『男が認めた上での』平等に他ならない。肉食獣の食欲を満たす裏市の描写があるが、これは人間社会でいう所の風俗に置き換えるとわかりやすい。
この裏市で肉食獣の食欲を満たすことができるからこそ、肉食獣と草食獣とが共存できる世の中になるのだろう。
最近ようやく食殺事件の核心を突く話になってきたけれど、正直なぜレゴシが体張るのかよくわからない。警察に行けばいいじゃんと思うのは私だけ?この食殺事件の解決が次の肉食vs草食大戦を引き起こしていくのかな~?なんて。
批判的めいた事を書いてしまったけど、総じて好きな作品。新刊を心待ちにしております。