漫画を濃くレビュー・感想・考察

『まんが道』 & 『愛…しりそめし頃に…』の感想・レビュー

      2018/12/27

世界に誇る日本の漫画の礎を気付いた漫画の神様達の青春時代を自伝的に描く、昭和漫画史ともいえる大作

■巻数

まんが道 kindle版で25巻

愛…しりそめし頃に… kindle版12巻 完結

■作者

藤子不二雄A (Aは○で囲む)

■紹介

終戦直後の日本、疎開先から富山県高岡市の小学校に転校してきたばかりの満賀道雄は休み時間にノートに絵を描いていた。それをたまたま見た才野茂が「お前、絵が上手いな」と話しかけた事から友達になる。お互い絵を描くのが好きな二人は中学生になると肉筆同人誌を制作する等楽しみながらマンガを描いていたある日、手塚治虫の『新宝島』に出会い衝撃を受ける。そのマンガは自由なコマ割り、躍動感のある動き、ストーリー性のある長編、とそれまでに見たマンガとは全くの別物であった。その後『漫画少年』という少年誌を知った彼らは“読者投稿漫画”に精力的に投稿し続ける。やがて二人は高校を卒業し、満賀は地元の新聞社へ、才野は製菓会社に就職するが才野は一日で辞めてしまう。満賀は新聞社に勤めながら、才野は漫画一本でしばらく地元から原稿を描き応募を続ける。2年後、満賀も新聞社を退社し二人で上京。親戚の家に下宿しながら漫画の持込を続ける。そして手塚治虫等の助力によりトキワ荘に移り住む・・・。

■感想

満賀道雄は藤子不二雄A先生のことで、本作は彼の自叙伝的漫画である。最近でいえば『バクマン』のようなノリだが、バクマンのように原作と作画を分けているわけではなく、どちらかが考えたストーリーを二人で分担して描くスタイルだ。物語は満賀の視点で進み、主に漫画家としての成長が描かれるが、それだけではなく友情や仕事の厳しさ、出版業界の裏側などもリアルに(正直に)表される。(実際はリアル:フィクション=7:3の割合らしい。)

満賀少年を通して体験したこと、思ったこと、感じたことを素直に実直に表現している。運動が苦手だったり、勉強が嫌いだったり、綺麗な女性と知り合えばその人の事ばかり考えてしまったり、漫画の才能があっても中身は戦後を一生懸命生きた一人の純朴な少年だ。

戦後の国民生活の様子も細かく描かれていて非常に興味深い。 漫画家の間では聖地とされる『トキワ荘』を知らない若者は多いと思う(私の世代でも知らない人が殆ど)。手塚治虫を初め、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二雄など、後の偉大な漫画家達が生活していた豊島区にあった1部屋4畳半風呂無しのアパートのことだ。上京してきた者達が徐々にここに移り、みんなで宴会をしたり合作をしたりして青春時代を過ごした。トキワ荘のことは他の漫画にも数多く出現し、知らない漫画家は居ないだろう。本作中ではトキワ荘について一番詳しく描かれている。

漫画の初期の頃はカクカクとした線で描かれ、日記を絵で表現したような内容だった。その内より感情表現などが豊かになり、ドラマティカルな場面も多く見られるようになっていく。『まんが道』は掲載雑誌が廃刊になった関係で一度未完のまま終わるが、その後復活し『愛…しりそめし頃に…』(以下、愛しり)という名前の続編に続く。『まんが道』では漫画家になるまでの道のりに重点が置かれているが『愛しり』ではどちらかというと日常生活が話のメイン。『まんが道』が面白いと思ったらこちらも是非読んで欲しい。 基本的に「まんが家になる為にがんばろう!」という目標に突き進む話なので、スポ根的な描写も多い(徹夜しまくりとか・・・)。彼らの作品が入選したり、新しい仕事の依頼が来ると読んでるこちらも嬉しくなるし後味が良い。ただ、かなーり重い話が2、3あるのでその辺は覚悟して読まれたし。

 

 

 

 

 

 

■こんな人におススメ・・・

  • 古い漫画、戦後の漫画史に興味がある
  • 高度経済成長時代に漫画を読んでいたアラ還世代
  • 漫画家などマイノリティ的職業を目指す中高生

 

 

 

 

 

 

■ここからネタバレ含むレビュー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜかこの漫画の愛蔵版が私が生まれたときから家にあり、子どもの頃から読んでいた。折りしもTVではオバQやパーマン、忍者ハットリくんなどの藤子アニメが連日放送されていて、私の中では“藤子不二雄は子供向けのアニメを作っている人”というイメージだった。本作を読んで初めて藤子不二雄は2人ということを知ったし、こんなに努力して漫画家になったのかと驚いた。 その後2年に一度くらいの割合で『まんが道』の事を思い出して映画を観たり、本を読んだりしていた。余談だが子どもの頃塗り絵コンテストに応募したことがあって、『まんが道』に出てくる某漫画家の賞をとったこともあったりする(笑)。学生の頃はトキワ荘に行ってみたり(その頃は建替えられたトキワ荘がまだあった)、社会人になってからは高岡市に行ってみたりもした。こう書いてみると結構ディープなファンだなぁ(笑)。おそらく私が藤子作品で育った子だったから想い入れが強かったのだろう。

まんが道

まんが道

文苑堂書店はまだ現存

私が好きなエピソードは二つ。一つは新聞社のラジオ欄で大失敗する話。もう一つは原稿を殆ど落としてしまう話。どちらも読んでいて胃が痛くなるような話だが、フィクションであるが故にその緊迫感がハンパない。

まんが道

原稿の殆どを落としてしまい、漫画業界から干されてしまう・・・

まんが道

プロの漫画家はお金を稼ぐ社会人。信用が無くなれば仕事がなくなるというのはどの業界でも同じ・・・

これらの話を読んで「大物も失敗するんだなぁ」と子どもながらに思った。再起不能になるほどの失敗をしても再び立ち上がる姿に感動というより羨ましいと思ってしまった。

また、漫画家と編集者との関係も興味深いものがあった。作中に登場する寺さんこと寺田ヒロオは清き児童漫画が段々と過激な描写などが増えるなどして変貌していくことに耐えられず筆を折ってしまったし、坂本氏こと坂本サブローは納得のいくまで漫画を描き直して最高の物を仕上げるという信念を持っていたが、編集部から締め切りを急かされて不本意なまま自分の作品が世に出されてしまったことに耐えられず漫画家を辞めてしまった。漫画だけに限った話ではないと思うが、芸術家は自分の信念のママに作った作品が高値で売れればそれが一番幸せだろうが、実際はその作品を世に出して泥臭く金に換える人間がいないと芸術家本人の生活は成り立たない。故に編集サイドは「売れるものにしよう」とあれこれと口を出してくる。映画にしても本にしても作る側とマネジメント側は対立することが多い。どちらが正しいというわけではなく、プロである以上どちらも正しいのだ。 まんが道に出てくる編集者達はとても厳しい。原稿を落としそうになれば代筆させてでも入稿させるし、3日徹夜も平気でさせる。今の漫画家がどうかは知らないが「作者急病の為休みます」なんてよく見るし、その辺は昔よりもだいぶ緩和されたのだろうか。漫画家という職業も発展途上だったけど、漫画雑誌の編集者というのも発展途上だったのかもしれない。 そんな彼らが今の漫画界の土台を築いてくれた。日本の漫画は世界文化遺産に登録されてもおかしくない。 A先生にはもっと長生きして頂いて、生涯現役で頑張って欲しいです。

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