漫画を濃くレビュー・感想・考察

『溺れるナイフ』の感想・レビュー

      2018/12/27

10代の心はまるでナイフのよう。他人も自分も傷つける・・・

■ 巻数

全17巻完結

■ 作者

ジョージ朝倉

■ 紹介

主人公望月夏芽は芸能人オーラバリバリのカワイイ女の子。体を突き抜けるような「何か」を求めて雑誌のモデルをしていたが、ある日突然祖父の経営する旅館に引っ越すことに。そこは東京から5時間もかかる田舎町。あまりに違う環境の差に、求める「何か」から遠ざかってしまったと落胆する夏芽だが、ある夜立入禁止のはずの“神さんの海”で出会った少年コウちゃんに会いコウちゃんのことばかり考えるようになってしまう・・・。

■ 感想

主人公は初登場時なんと小学6年生。最初は若すぎでしょ・・・と思ったが、いやいやこれでよかったのだ。小6といえば、ティーンが始まる歳。ここから中学~高校までの10代がメインの話。

電子書籍で3巻まで無料になっていたところを、何の予備知識もなくタイトルだけで読んでみて、その日の内に全巻購入してしまった(笑)それくらい強烈だった。まず画が綺麗。通常、私はそこまで画力を重視しないのだが、本作の画はタッチがとても繊細でそれがこの作品の“切なさ”“脆さ”“危うさ”みたいなものを際立たせている。 話の内容は、全体的に重い。重いが、ちょいちょいギャグも入っているし、ほっとできるような話も多い。非常にバランスが良い。自分の10代の頃を思い出して「あぁ、なんとなくわかるな~」と思うエピソードもちらほら。

少女マンガの恋バナは、もう男がワンパターンすぎて(笑)正直飽きてしまっている。しかしこの漫画に出てくるコウちゃんは今まで見たことの無いキャラだった。登場したときから出来上がっている、隙がなく弱みを見せない完璧なコウちゃん。でも、中二病みたいなこともする。馬鹿もやる。やんちゃもする。しかし、女子に対して、テレることもない、優しさもめったに見せない、でも「女に興味ねーよ」なキャラでもない。何を考えているのか・・・読めない。本能のままに生きてる。ように見えて実はあまりに多くの事を抱え込んで常に考えてる?こんな読めない男子、少女マンガで見たこと無い!確かにコウちゃんみたいな男子は追いかけたくなるな。

主人公の夏芽のキャラも良い。生まれたときからぱっちりおメメとほっそい体とサラサラロングヘアを持つ彼女は、ややもすれば女性読者に嫌われそうな存在だが、どこか憎めない。「わかるよ、その気持ち」って時もある。たまにマヌケなこともするし、意地も張る。感情移入もしやすい。

また、舞台となった架空の田舎町の設定も素晴らしく。広島弁と関西弁を掛け合わせたような方言も読んでいておもしろいし、田舎ならでは噂の早さとかどこか閉鎖的な文化が変にリアリティがあってさらに引き込まれる。世界観がすごい。

もっと評価されるべき漫画。 あまり書くとネタバレになりそうなので、このあたりにしておく・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■こんな人にオススメ・・・・・

  • 重い恋愛話に浸りたい
  • とにかく綺麗な絵がみたい
  • 普通の少女マンガにはない独特の世界観を味わいたい
  • 単なるイケメンの王子様キャラに飽きた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ここからネタバレ含むレビュー↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書きたいことが色々あるので、人物別で。

●夏芽

ヒロインだからね、きゃわゆいのは当然。でも、いくらなんでも大人っぽすぎる!(笑)最近の小中学生はこんなもんなのかな。それはさておき・・・。 夏芽は大友とくっついて欲しかった!って人多いみたいだけど、冷静に考えても無理だ。コウちゃん云々の前に、芸能界入っちゃったし。夏芽がコウちゃんをアッサリ“受け入れた”時はさすがに私もイラついたけど。それでも夏芽、なんか憎めないんだよね~。完璧すぎる女子って文句のつける隙がないというか。

溺れるナイフ


ええっと、、これは広能さんの愛人の一人になって濃密に付き合っちゃうよ~、って事だよね(占いの話)。これはちょっと引くかも(笑)結局付き合うってことじゃん。まぁ、 ともかく、コウちゃんと結ばれてよかった(後述)。

●コウちゃん~

この話って毎回登場人物の心理状態が不明瞭で特にコウちゃん目線の話がないのでコウちゃんが何を考えているのか良くわからなかった(本人の視点で語られているのは 夏芽、カナ、大友、桜司 の4人)。コウちゃん目線の話がないからこそ、読者はコウちゃんが考えていることが良く理解できないが、それが返ってコウちゃん神聖化に拍車をかける。コウちゃんの中に本当に神聖な物が宿っているのか、不思議な力を持っているのか、周りの者達から見たコウちゃんの不思議なオーラによってのみ表現され、本人の口からは語られない。

コウちゃんの幼少期は手のつけられない暴れん坊で孤独な少年。そりゃあんな出自&トラウマ事件&生育環境で普通でいろって方が無理がある。そんなコウちゃんも夏芽と知り合いになる前後は楽しそうに学校生活を送っていて(1~3巻)その頃の描写は後から読み返しても軽い気持ちで楽しく読める。修学旅行の話なんてほんっと心が和む~。

大友(達)と友達になって、夏芽という彼女もできて、そろそろトラウマも薄れてきた頃に例の拉致事件が起こってしまい、そこで犯人に首を絞められ殺されかけたことにより、母親に殺されそうになった記憶がフラッシュバックしてしまった・・・。そしてそれまで自分を完璧な存在(神さん)と思っていた夏芽が明らかに失望しているのがわかる。そこから一気に荒んでいた頃に戻ってしまった。自分が幾度となく一族の者から“神の使い”であることを期待され失望されて来たのと同じ事が起こったのだ。

コウちゃんは話の中で、かなり神格化されている(特に夏芽とカナに)。と、同時にふつ~のオバカな男子学生という描写も多く、夏芽とカナ(と桜司?)を除いた周りの人物達からすればちょっと暴れん坊なイチ友人にすぎない。

溺れるナイフ

こんな中ニ病バリバリのコウちゃんも・・・笑 でも、これはきっと作ってるキャラなんだろうな~。 途中の大友編(と勝手に名づけた)は思ったより長くて、しかもコウちゃんはチョイチョイしか出てこなかったので、こりゃ~意外と大友エンドあるんじゃないかと思ってたのだけど・・・。

大友、良いキャラ、いや、良い男。夏芽にフラれた時は胸が苦しくなった(笑)。友達の女に手出しちゃだめだよ~。しかも大友大切にしてやれ的なことも言ってたのに。おそらく、コウちゃんは夏芽が本当に大友のものに(つまり初めての人に)なってしまうことに薄々焦ってきたんじゃないかな。投げやりなフリしてきたけど、夏芽のことなんてもうどうでも良いってフリしてきたけど、やっぱり手放したくなかったんだよね~。でも、レイプまがいのことして・・・あれはいかんよ。

実力で合格した高校に入ることすら許されず、さらに堕落したコウちゃんを救ってくれたのは伯父の神主さん。(余談だが、神主さんはコウちゃんのお姉さんと結ばれるってこと・・・?それ、ありなのか?)伯父さん、もっと前からコウちゃんにカツいれてやってよ。

溺れるナイフ

占い師が夏芽に話した(おそらく)コウちゃんの未来。この通りの未来になるなら、コウちゃんってかわいそうな運命にずっと縛られながら生きていく人なんだな~とほんのり悲しくなった。さりげなく、カナが愛人になってるのもなんか・・・救われない。 でも最終的にはカナも上京して自分の夢に向かって行ったし、コウちゃんも40年後くらいに夏芽と結ばれた。55歳っていうのもあの二人なら妙に納得。芸能人で熟年結婚する人いるしね。コウちゃん、本当に不思議で魅力的なキャラだったな。作者もかなりしっかりとキャラクター設定したのだと思う。

大友

悲劇のキャラ(笑)いや~、小学生の頃はコウちゃんと二大モテキャラって感じで登場したけど、後々夏芽と付き合うとは思わなかったな~。コウちゃんと同じようにやんちゃな大友だけど、コウちゃんとは対照的にとても人間味溢れる思春期の男子。コウちゃんはとても魅力的だけど、いざ彼氏となるとコウちゃんの気まぐれな態度に振り回されて疲れてしまいそう。でも大友はと~っても大切にしてくれる理想の彼氏。私のような凡人には、やっぱ付き合うなら大友だよな~と思ってしまう。 大友とコウちゃんは、結局仲直りできたのかな。コウちゃんが神さんの海で自殺(?)を図った時、助けたのは大友。でも自分の彼女寝取ったって知ったら、怒り狂うはず。その辺は何も描かれなかったけど・・・。 友達想いなとこも大友のいい所。こう書いてると大友って欠点ないよな~。ほんともったいない。

●カナ

「うざっ」って思う人多いんじゃないかな。でも「溺れるナイフ」に欠かせない重要人物。夏芽が一番ライバル視してたのは実はカナ。普通ならカナは主人公達の恋路を横恋慕してくる単なるお邪魔虫だけど、カナは自分がコウちゃんと付き合いたい!と言うわけではなく、夏芽と一緒になって欲しいという気持ちが強い。カナは元々、綺麗な物、美しいもの、神々しいものが好き。だからキラキラ光って見えたコウちゃん、眩しい位綺麗な夏芽が一緒になってこそ、彼女の中で最上級の“美”になる。

溺れるナイフ
「溺れるナイフ」の中での私的ベストシーン。カナ視点での1コマだけど、カナから見た最高にカワイイ憧れ女子とキラキラと光る神さんのような男の子、その二人がスカーフを手渡すだけのシーン、それが筆舌に尽くしがたいほど眩いものだった。それを見たカナは「ウチは間違ってなかった」と再認識する。

しかし、、、途中からカナの痛々しい行動言動がエスカレートしてきて、見ていてちょっと辛かった。コウちゃんと夏芽を仲直りさせようとして逆に拗らせたり、大友との仲を引き裂く為に他の男に処女をあげたり、コウちゃんにバイト代貢いだり、レイプされた挙句死体遺棄・・・(重)

コウちゃんのことを忘れて、他の男子と付き合えばもっと楽しい学生生活が送れたはず。 最後の最後でようやくコウちゃんに見切りをつけたけど、そこでコウちゃんも初めて気付く。自分にここまで尽くしてくれたのはカナしかいない。そうなって初めてカナのほうを向いた。でもコウちゃんを手に入れても全然幸せじゃない。コウちゃんが幸せじゃないから。だから夏芽がまたコウちゃんと神さんの海で再会したときの二人を見て嬉しかった。そこでようやくコウちゃん(に依存する自分)から解放されたのではないだろうか。

卒業後は上京してメイクの学校に通ってる一コマが。占いで言われたような、コウちゃんの愛人にはなってないと思いたい。

●桜司

見た目は田舎の中坊ヤンキー。やれどこ中の誰をシメただの、喧嘩して勝っただの、そんなことを自慢して生きてる。いたな~こういうイキがってるヤンキー。彼も最初はコウちゃんに対抗心を燃やして喧嘩で勝とうと躍起になってたけど、そのうちコウちゃんの本当の弟のようになってくる。彼もコウちゃんの“何か”に魅かれた一人なのだろう。どんどんコウちゃんに心酔していくのがわかった。特に自分の母親が自分を捨てようとしていることを知ってから。コウちゃんは不良仲間とつるみながらも、実際そこまで心を開いていなかったと思う。そんな中で桜司は自分と通じるものがあり(長谷川家に振り回されてるとことか・・・)彼には心を許したのではないだろうか。ラストで桜司は少年院に入ってしまい、コウちゃんとは決別したように思われたが、弟が生まれて幸せそうに手を振るページでコウちゃんに連絡とろうとしていた。最終的には長谷川の家に入ったのだと推測される。

余談だが、彼の母親も長谷川家の犠牲者。正確に言うとコウちゃんの祖父の先代の犠牲者。よく考えるとこの先代が全ての元凶な気が・・・。 ・・・・

 

好きな漫画なので長々と語ってしまったが、読んだ後に不思議な余韻が残った話だった。所々自分の学生時代と重なる所もあったし。憧れとか、いいな~そんな体験・・・といった嫉妬に似た感情もあった(笑)このくらいガツンとくる少女漫画が増えてほしいな。

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