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『ルサンチマン』の感想・レビュー

      2018/12/27

現実を直視しろ、おれ達にはもう仮想現実しかないんだ。

■巻数

4巻完結

■作者

花沢健吾

■紹介

主人公坂本拓郎は印刷工場に勤める30歳。チビデブハゲ(初め)の素人童貞。毎日印刷機を回しながら何の目標も希望もなく毎日を過ごしていた。ある日、久しぶりに会った幼馴染の非モテ男越後が勤めていた会社を辞め、彼女と遊びほうけていると自慢する。が、それはパソコンゲーム(仮想世界『アンリアル』)での話であった。拓郎は呆れたが、越後に奨められ試しにプレイしてみると想像以上のリアルさに興味を抱く。コンピューターやソフトが高額な為一度は購入を見送った拓郎であったが、貯金を叩いてPCを購入し、ソフト(ゲーム内での恋人)を散々迷った末に陳列棚の下の方に埋もれていた月子という女の子に決める。越後は「購入した女の子は問答無用でプレイヤーに惚れるはず」と言うが、月子は他に好きな人がいるという。他の女の子とは明らかに違う月子だが、拓郎は仮想現実(アンリアル)の世界にのめりこんでいく・・・。

■感想

本作のタイトル『ルサンチマン』とは、主に弱者が強者に対して、「憤り・怨恨・憎悪・非難」の感情を持つことを言う(by wikipedia)。要はリア充への嫉妬ということ。『コンプレックス』じゃなくて、『ルサンチマン』にした所にセンスの良さが伺える。作者は『ボーイズ・オン・ザ・ラン』や『アイアムアヒーロー』で有名な花沢健吾。自身も印刷工場で主人公拓郎のように働いていたらしく、タイトルからしてかなり実感篭っている。同作者の作品は非モテ男を主人公にする話が多い。女性優遇社会に怒りを感じているらしく、漫画の中で恨みを晴らしていると思われるような描写も多々ある。本作は作者のデビュー作であるが、よくまぁ…主人公をこんなキャラにしたよね…。

ルサンチマン

主人公の拓郎・・・

どんな漫画でも、主人公は(縦しんばイケメンじゃなかったとしても)それなりの顔をしているものだ。たとえオタクが主人公でも、「付き合える許容範囲」の顔をしている。しかし本作は容赦ない。女性からモロ敬遠されそうな風貌だ。しかもドアップで・・・。一瞬読むのを止めようかと思ったくらいだ。この主人公、カップ焼きソバのお湯を蟻の巣に流し込んでニヤけたり、パン一でアソコをボリボリ掻いたり・・・引くわ~という行動を平気でとる。この作者、女性読者に媚びる気ゼロだ(笑)。

作中に出てくる架空のゲーム『アンリアル』は流行の大規模オンラインゲーム(MMO)の超進化版(設定が作品発表の約10年後2015年、って今年だけど)で、ただマウスを動かしてゲームをするのではなく、手に専用のグローブを、体にボディスーツを、アソコにケースを装着して実際に触ったり触られたりする感触まで味わうことができるという画期的なゲームだ。

ルサンチマン

女性に見向きもされない底辺にいる男が主役になれる世界。購入したソフト(女の子)は絶対に自分の事を好きになってくれる。その娘達とデートしたり学校に行ったりセッ○スしたりすることができる。アンリアルの中ではイケメンにもなれるし、豪邸にも住めるし、自分の理想のままに生きることができる。作中ではアンリアルの世界と現実の世界が交互に描かれることが多い。一見笑いをとる為に用いられた手法に見えるが、切なさを誘っている。

ルサンチマン

アンリアルの後に同時進行している現実世界の描写が出てくるのでより一層虚しさが強調される。

本作は同じような経験を持つ非モテ男子から熱い支持を得たようだが、そうでなくても楽しめる人には楽しめると思う。しかし女性には厳しいかも。

ルサンチマン

「現実を直視しろ、おれ達にはもう仮想現実しかないんだ」は名言!

 

 

 

 

 

 

■こんな人におススメ・・・

  • 彼女居ない歴=年齢
  • ネトゲ廃人
  • 生理的にキモイ男の描写に耐えられる人
  • 一度は理想の女と付き合いたい!

 

 

 

 

 

 

 

■ここからネタバレ含むレビュー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なかなかテンポ良くて、盛り上げ方も上手かったので長編になるかな?と思っていたら4巻で終了。上手く纏められてたと思うが、実際は打ち切りという噂も。それはさて置き・・・昔は漫画の主人公と言えば皆ヒーローだった。バトル、スポーツ、ギャンブル、恋愛、ヤンキー、ヤクザ・・・どの漫画も主人公はそれなりに格好良く、読者の憧れの存在だ。やがて冴えない男を主人公にする漫画が登場してくるが、たとえ登場した時はヘタレでもその内ドンドン成長して最後は栄冠を掴むというストーリーが殆どだ。徹頭徹尾ヘタレキャラで、しかも最後まで報われない主人公の漫画はなかなか無い。作者は、底辺キャラが人生で一度たりとも浮上出来ない辛さを漫画の中で表現していた様に思える。何をしても何をやっても上手く行かない灰色の人生は経験した者でないとその辛さはわからないだろう。 しかし、そんなヘタレ主人公・拓郎にも大チャンスが巡ってくる。

ルサンチマン

同期(だが拓郎とは違い営業)の長尾(30)にアプローチを受ける。長尾が拓郎に惚れたのは「(ずっとコンプレックスのあった)若い女に負けたくない」からだったのかもしれないし、ずっとダメンズを好きになって失敗してきたので、純朴な男を選んだだけなのかもしれない。 この漫画を読んだ時、私はアラサーにカテゴライズされる年齢だったので、一番長尾に感情移入して読んでいた。そして、“普通の女”が拓郎に惚れる理由もわからないでもないと思った。

ルサンチマン

現実の女によって成長できる

が、最終的には月子(仮想現実)を選んだ拓郎。普通の青春(恋愛)を謳歌してきた人間には絶対に理解できない選択だろうが、冷静に考えれば“好き”になるのに現実も仮想現実もないのかもしれない。拓郎にとっては生まれて初めて本気で好きになった相手だったのだろう。

ルサンチマン

「底辺で生きて来た30年より、仮想現実で生きた2カ月の方が大切」という非常に重みのあるセリフ。

ルサンチマン

ラストシーンで密かに死亡が判明している越後(右上)。親友の写真も飾るなんて友達想いな奴だ・・・。そして、4巻の表紙が月子が弁当屋で働いている絵なので、もしかしたらこの後月子と結ばれるのか、はたまた長尾と結婚して月子の父になるのか、後は読者の想像に任せるという体で終わっている。

ressentiment6

途中、かなり設定に無理があったり、最後は駆け足で終わった感も否めないが、4巻という少ない巻数にしてはなかなかの名作だと思った。

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